作者:狐火マナ
タイトルの通り。
作成日:2020/06/15
この世界には、男女の性別の他に、ダイナミクスと呼ばれる第二の性が存在する。 ダイナミクスには、Subを支配したいという欲求を持つDom、Domに支配されたいという欲求をもつSub、DomとSubのどちらにでもなれるSwitchの三種類があり、ボクはその中のSubにあたる……不本意ではあるが。 ボクの親友はDomで、Subであるボクの姉と関係を持っていた。 にも関わらず、彼はボクとも関係を持った。 その結果、上手い事信頼関係が築けず、姉を酷く傷つけてしまい、ボクは自身の性とDomが嫌いになった。 だから誰にもボクがSubだという事は伝えていない。 とは言っても、生まれ持った欲求に抗うのはとても難しいことで、ボクは今とても不安定な状態……らしい。 らしい、というのは、ボクはその状態が長く続き過ぎたせいでいまいちピンときていないからだ。 ただ、言われてみれば人よりも体調を崩しやすいような気もするので、やはりそういうことなのだろう。 何故そんなことを考えていたのかというと、今がまさにその体調不良の時だからだ。 「うぅ……」 込み上げてくる吐き気を堪え、町を歩く。 家には照ちゃんと美々ちゃんがいるため、逃げる様に町へと出てきたのだ。 こんなに弱っている姿はできれば知り合いには見られたくない。 だが、そんなときに限って見知った姿と目が合ってしまった。 「夏目じゃないか……そんなにフラフラして、どうしたんだ?」 「あ、梓くん……いや、特に何もないんだけどさ」 彼――梓くんは、Domなんだと本人が言っていた。 ダイナミクスを公表するのは、不慮の事故を防ぐためにもなんらおかしい事ではない。ボクが異常なだけだ。 ボクが嫌いなのはDomという性そのものであって、Domに生まれた人ではない。Domに生まれた人だって、望んでそう生まれた訳ではないのだから……多分。 そういう訳で、Domである彼とも比較的良好な関係を築けていると思っているのだが、今この状況では一番会いたくない人物と言っても過言ではなかった。 「顔色が悪いぞ。急ぎの用でないなら、少し自宅で休んでいたらどうだ?」 顔の殆どが隠れているにも関わらずそう言われるということは、本当に酷いのだろう。 だけど、今はとにかく一人になりたかった。 「ありがとう。でも、大丈夫だよ。ボクはこの通り元気だ、し――」 その瞬間、突然吐き気が込み上げ、視界が白く染まりそのまま倒れかける。 「おい、夏目! ……やっぱり、大丈夫じゃないな」 梓くんが支えてくれたため地面に倒れこむことは無かったが、この場から逃げる口実を完全に失ってしまった。 「だ、いじょうぶ、だから……」 「大丈夫な訳ないだろ!!」 それでも何とかここから逃れようと言葉を口にしたが、彼のGlare――目力や威圧と言った方が分かり易いかもしれない――にあてられ、それ以上言い返すことはできなかった。 ただ、彼はそれを、怒鳴り声に委縮しただけだと捉えてくれたようだ。 「いきなり怒鳴ってすまない。家まで送る。……歩けるか?」 正直、歩くどころかまともに立つことも難しい。ゆっくりと首を横に振る。 「そうか……少し揺れるが、我慢してくれ」 そう言うと彼は、ボクの頭を撫でたあとボクを背におぶってそのまま歩き出した。 子供扱いするなとか、町の中で恥ずかしいとか、言いたいことは色々あるのに、撫でられた瞬間から頭がふわふわして何も考えられない。 彼に優しくして貰えて嬉しいということ以外は、何も。 やっぱり、ボクがSubだから、本能には逆らえないのかもしれない。 それでも、やっぱり。 (嫌だな……) ボクは、自分自身の性が嫌いだった。
登場キャラクター
川蜘蛛 梓(よその子)
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