作者:狐火マナ

加賀美照が大陸に帰る話

作成日:2020/01/17


「里帰り? ……君が?」  百々目鬼は、心底驚いたというような表情と声色でそう言った。 「したら悪いのか?」 「いや、そういう訳じゃないんだけどさ……」  言葉を濁してはいたが、こいつの『意外だな』という思考を自分は見逃さなかった。 「あっちに残してきた奴らがいるんでな。暫く放っておいたし、たまには顔を見に行ってやろうと思ったんだよ」  理解はしたがいまいち腑に落ちないといった顔をしていた百々目鬼だったが、それ以上は言及されなかった。 「まあ、そういう事なら……気を付けて行ってきてね」  そう言った百々目鬼を尻目に、扉を閉めた。

人生、もとい妖生2度目の船に乗り、大陸へと向かう。  アレらに手向ける用の、黄色い花束を持って。  着いたら何を話そうか。気付けばそんなことばかり考えてしまう。  ……断じて楽しみな訳ではない。  心の中でそう言い訳をしたのは、アレらが楽しそうに笑い合っている顔が目に浮かぶようで、少し腹が立つからだ。 「……懐かしいな」  アレらの事は今でも許していないが、今となっては少しだけ寂しい気もする。  ……いや、そんなことは無いな。  あんな奴ら、いなくて正解だ。  今回向かっているのだって、アレらが二人きりで楽しくやっているかもしれないのが癪だから邪魔してやろう、と思ったからであって。 「はぁ……」  やはり、一人でいると余計なことまでごちゃごちゃと考えてしまう。  最近は周りに煩いのが多かったから、こんなことは考えてもいなかったのに。 「調子が狂う」  誰かといることに慣れてしまったら、"普通"である筈の孤独に耐えられなくなる。そんなことは分かっていた筈なのに。  所詮自分も、アレらと同じ穴の貉という訳か。 「……はは」  思わず笑いが零れる。  といっても、自分の表情筋はもう動いてはくれないが。  孤独であるには人に焦がれすぎたし、誰かと過ごすには孤独に慣れすぎた。 「全く。生き辛い世の中だ」  アレらがいなくても幸せになってやると、自分は幸せになれる筈だと、そう思っていたのに。 「……やっぱり、お前らがいないとダメみたいだ」  まぁ、絶対に本人らには言ってやらないがな。言う必要が無い。  そんなことを考えている間に、船は大陸へと到着した。  久々に大陸の土を踏むが、やはりあの頃と比べると大きく変わっているようだ。  アレらを封じた所は何処だったか。  覚えてはいるが、こうも景色が変わっていると見付けるのも大変そうだ。  そう思っていたが、それは案外あっさり見付かった。  都合よく周りに人もおらず、これなら落ち着いて話が出来そうだ。

久し振りだな。土産に花束を持って来たぞ  ……と言っても、お前らは花なんてわからないよな。  教えてやるから、少し長いがちゃんと聞いてろよ。  まずは、これが向日葵。太陽の様な花だ。  花言葉は、『偽りの富』。  意外か? もっと明るい意味っぽいのにな。自分も、初めて知った時は驚いた。  こっちの花は彼岸花だ。黄色い彼岸花って、なんか珍しいよな。  花言葉は、『諦め』。まあ、お前たちには失望したってことだ。  こいつか? これは百合だな。  因みに花言葉は『偽り』。  そんでもって、こっちの花は茜。  『誹謗』とか『不信』っていう意味の花だ。  ――似たような花言葉が多い、って?  そりゃそうだ。それだけ、この感情を伝えたいってことだよ。  お前たちだけ幸せに過ごされるのも癪だからな。  せめてこのぐらいはさせて欲しいな。  あぁ、あと、流石にわかるとは思うが、これが薔薇だ。  花言葉は、『裏切り』――裏切り者のお前らにぴったりだな。  この花は一番気に入ってるから、少し多めに入れてあるんだ。  その分、違う色が混ざった個体もあるがな。  確か4本だったかな?  いま自分が住んでいる国では、4は『死』を連想させる不吉な数だと言われている。  ……まあ、こんな所かな。  やっぱり、直接言うとすっきりするな。  そうだ、最後に一言だけ。

「私は、あなた達がいなくても、幸せになってみせるから」  お前らの存在なんて、所詮そんなもんなんだと、二人に、そして自分に言い聞かせるように言う。  言いたいことは全部言い終わったので、そっと立ち上がる。  返事が返ってくるでもなく、ただただ風の音だけが響く。 「じゃあな。……もう来ないよ」  そしてそのまま振り返らずに歩きだす。  振り返ってしまったら、名残惜しくなりそうだから。  ――どうか、アレらが、花に詳しくありませんように。  お世辞にも心地良いとは言えない花の香りが、背中越しに消えていった。


登場キャラクター

加賀美 照

夏目

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