作者:狐火マナ

タイトルの通り。

作成日:2020/06/14


薄暗い山の中、草の陰にそっと隠れる。  僕の両隣で同じように屈んでいる黒狐と多重人格の方を見ると、丁度目が合った。  準備は整ったようだ。後は時が来るのを待つだけ。  ――1時間ぐらいが過ぎた時、向こうから足音が聞こえてきた。  息を潜めて様子を見ると、どうやら二人組の若い人間の女の様だ。  二人に目配せをしてから、豚の姿になって駆け出す。  この姿なら、気付かれずに近付くことも簡単にできるからだ。  地面を蹴る毎に二人組との距離がぐんぐん縮み、そのまま彼女らの股の間を潜り抜ける。  途端、彼女らは糸が切れた様に崩れ落ち、それと同時に僕のお腹が満たされる。 「……美味しくない」  予想はしていたが、思わずそう呟く。  基本的に、人間の魂は美味しくないのだ。生きていくために、仕方なく食べているだけで。 「終わったー?」  人間に近い姿になると、草の陰の黒狐に声を掛けられる。  そうだ、今日は、一人じゃなかったんだっけ。  ぼんやりとそんなことを考えながら、いまいく、とだけ返す。  人間だったもののそれぞれの足を掴み、そのまま引き摺ってさっきまでいた所へ戻る。  万が一他の人間が通った時の為に、草むらの中に身を隠しそこに死体を転がす。 「いやー、助かるんよー」  多重人格の言葉を聞きながら、そっとそこに腰を下ろす。  丁度2つとれた為、分け方には困らないだろう。  ここから僕は暇なので、二人の様子を見るしかやることがない。  まあ、二人の食べ方の違いは、見ていて少し楽しいので文句はないが。  黒狐の食事は大胆で、見ていて清々しい。  まず人間だったものの腕を折り、そのまま齧り付く。  そのままバリバリと音を立てて骨ごと食べているのにも、もう慣れてしまった。  一方多重人格は、それよりは丁寧に食事をする。  持っているナイフを使って、食べられる所とそうでない所を切り分ける。  黒狐と違って、髪の毛や骨なんかは食べないらしい。  それで食べられる部位を更に細かく切り分けてから食べ、残った分は持って帰っている様だ。  まあ、どちらにせよ 「二人とも、シュミ悪い……」  人肉は以前に一度だけ食べたことがあるが、とても食べられた物じゃない。 「そうなんかなー?」  なんて言われたが、僕からしたら本当に意味が分からない。 「ソレ、美味しいの……?」  そう尋ねると、二人は顔を見合わせて首を傾げた。  こいつは何を言っているのか、という顔をしている。 「んー……別に?」 「気になるなら、少し食べてみる?」  黒狐の適当な返事を聞き流し、多重人格からの特にありがたくもない提案は断った。  その後は特に会話をするでもなく、ただただ無言で食事をする二人を眺めていた。  たまにはこんなのも悪くない。


登場キャラクター

片桐 美々

柘榴(よその子)

烏十羽天城(よその子)

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